| ◇初の地下商店街「上野ストアー」1930年開業
わが国の地下街建設は、1927年に、東京の浅草から上野まで地下鉄が開通したのが契機となった。駅にあわせて地下道が建設されて、そこに商店が張りつき、30年にわが国最初の地下商店街「上野ストアー」が開店した。以後、32年には「須田町ストアー」、33年には「室町ストアー」と「日本橋ストアー」、34年には、「銀座ストアー」と「新橋ストアー」が相次いで開店した。このように戦前は、地下鉄の駅に併設した地下商店街が中心だった。戦後は52年に「三原橋商店街」が、次いで55年に「浅草地下街」が完成した。浅草地下街は来年、築60年を迎える。国交省が昨年に一斉点検した地下街の中で、閉鎖予定のものを除くと最も古い地下街だった。
ひっそりとした三原橋地下街の入り口=東京都中央区銀座で4月12日 ひっそりとした三原橋地下街の入り口=東京都中央区銀座で4月12日 拡大写真 当時の地下街を分類すると、地下鉄の施設とあわせて開設された▽単独の商店街として建設された▽地上交通の混雑緩和を目的にした▽地下通路の設置にあわせて地下街として建設された▽地下駐車場にあわせて地下街を併設した−−ものなどがある。57年には、「渋谷地下街」や「名古屋地下街」、「ナンバ地下センター(現・NAMBAなんなん)」などが開業するなど、全国の地下街は高度成長に合わせて開業してきた。
ところが、72年5月の大阪千日前デパートの大規模火災を契機に翌年7月に「地下街の取り扱いについて」という4省庁(建設省、消防庁、警察庁、運輸省)通達が出され、それ以後の地下街の新設・増設は厳しく抑制され、「地下街中央連絡協議会」の設置などが定められた。また、地下街中央連絡協議会は74年6月に「地下街に関する基本方針」を出して抑制方針を追認した。
さらに80年8月に「静岡駅前ゴールデン街」でガス爆発事故が発生したことから、同年10月には、4省庁に資源エネルギー庁を加えて「地下街の取り扱いについて」という5省庁通達が出されて、規制がさらに厳しくなっていた。
ところが転機は国から地方への権限移譲を求める地方分権改革の推進で訪れた。2000年4月に国からの機関委任事務を廃止することなどを柱とする「地方分権一括法」が施行された。これに伴って01年6月に、「地下街中央連絡協議会」が廃止され、4省庁通達と地下街に関する基本方針と5省庁通達も廃止された。現在は建築基準法や消防法、道路法などが地下街について安全基準などを個別に定めている状況だ。
◇大地震で津波浸水、要救助者の発生を想定
都市部で地下街の果たす役割は大きい。地下街の利用者が1日当たり10 万人以上となる地下街も多数あり、都市機能を担う施設として欠かせないものとなっている。1日当たりの平均来場者が10万人を超すのは東京駅の「八重洲地下街」や「川崎アゼリア」、「ホワイティうめだ」など18施設あり、5万人から10万人未満が新宿東口地下街や京都駅北口広場地下街など7施設、1万人から5万人未満が博多駅地下街など17施設ある。
首都直下地震と南海トラフ巨大地震での被害想定によると、地下街やターミナル駅が崩壊した場合には、津波による浸水被害もあって局所的に膨大な要救助者が発生するうえ、救助人員の確保が困難となるとされている。
実際に発生した大地震で、地下街はどうなったのだろうか。阪神大震災の地下街の被害状況をみると 神戸市には「さんちか」と「メトロこうべ」、「デュオこうべ」の三つの地下街があり、三宮にある「さんちか」は震度7の分布域に位置して大きな地震動を受けた。しかし各地下街とも、地震による構造物の被害は、部分的なひび割れが生じた程度で、構造物全体が崩壊にするような大きな被害は発生しなかった。 構造部以外の被害では「さんちか」で天井板が1枚落下したほか、柱・壁仕上げ材の落下やスプリンクラーヘッドの破損・漏水などの被害があった。
東日本大震災では、仙台市にある市営地下鉄は地下構造部分での大きな損傷はなかった。地震の直後は駅構内も非常灯を除いて、全ての照明が停止したが、パニックは起こらず、駅係員による誘導で全員の地上への避難が完了したという。また、仙台駅東西自由通路でも大きな被害はなかったという。ところが、震度5強を記録した東京では、古い浅草地下街で震災直後から地下水などの水漏れが目立つようになったという。
地下の構造物は、地震時に地盤の揺れと同じ揺れをするため、地上の構造物のように地盤の揺れに合わせて建物自体が揺れて、揺れが増幅されるということがないため、地上構造物ほどには被害が生じないとされる。これに対して国交省は「地下施設だから地震に強いという安全神話には頼らないでほしい」と、地下街の耐震化など安全対策を求めている。
国交省が今回まとめた「ガイドライン」では、「地下街の耐震化」と「非構造部材の落下防止」のための空間の安全性確保に向けた対策、混乱やパニックを予防する避難誘導の実現が必要として、利用者の落ち着いた避難行動への誘導方策などを記している。
また、地下街の公共用通路についても、天井内と天井面にはスプリンクラーなど多くの設備機器が設置されていることから、天井と天井内空間の安全性の確保が重要とも指摘した。同省は「地下街の構造物の安全が確保できなければ、地下街の利用者や、地上への影響も甚大なものとなる。何よりも安全を確保することが重要」と結んでいる。
さらに、大規模地震時には、避難経路の通行障害や接続する施設からの避難者の流入など予期せぬ事態が起こる可能性があるとして、シミュレーションなどによって避難経路上の課題を把握し、適切な対処方法を事前に検討することが必要としている。
国交省は昨年度の調査に合わせて全国の地下街からヒアリングを実施しており、その際に現況の平面図や設備図などの図面を適切に管理しているかを確認している。平面図以外の図面がないケースや、図面はあっても現況を反映していないといった状況も一部の地下街では見受けられたという。
そのうえで、適切な施設管理を行うために地下街管理者が地下街の情報を整理して適宜、追加更新を行うことが必要とし、過去の浸水区域や地上出入口の標高の把握、過去の改修履歴や設備の設置時期の確認、ガス管などで経年管の確認なども必要とした。地下街の耐震対策や避難対策などを進めるにあり、地下街の管理者が施設の現在の状況について正確に把握することを求めているわけだ。
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..2014/10/31(金) 12:26 No.3632 |
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